Story
鉄工所で働く孝秋は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義とそんな父に振り回される母・マチのことが気がかりで、実家の団地を訪れる。
しかし忠義は、数年前に死んだ孝秋の兄と区別がつかないのか、彼を見てもただぼんやりと頷くだけであった。
強風吹き荒れるある日、事故が起こる。
団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。
父の安否を心配して慌てた孝秋であったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。
だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土が…。
一転して父への疑いを募らせていく孝秋。
「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。
それらが亡き兄の記憶と交差した時、孝秋が見つけたひとつの〈答え〉とは。
Comments
映画に寄せられたコメントをご紹介いたします。
たった一言の台詞で、映画の中にグッと引き込まれることがある。
たった一つの仕草で、映画の中がパッと豊かになることがある。
映画のマジックみたいなものだ。
だからこそ難しく、そんな映画には滅多に出会えない。
と思っていたら、『誰かの花』の登場人物たちの些細な言動に、僕は何度も心を揺り動かされた。
やられた。
静かに大胆に愛を持って人間を描き切ろうとする奥田監督の仕業だ。
中野量太
映画監督
主演のカトウシンスケさんは僕の初長編映画『ケンとカズ』でご一緒しました。
『誰かの花』でのカトウさんの孝秋というキャラクターは他のどの作品でも見る事のない、
力強く揺るぎないけどとても繊細な“眼差し”でした。
そんなカトウさんの眼差しを引き出した奥田裕介監督の手腕に激しく嫉妬です。
10年経っても全く色あせないであろうこの『誰かの花』は必ず今、映画館で見るべき映画です!
小路紘史
映画監督
この痛みは一生消えないのだろう
一瞬忘れたとしても泣いたり笑ったりしたとしても
だけど多分それでいいのだ
寄り添って生きていくしかないのだ
勝手に自分だけの「誰かの花」がみんなの「誰かの花」になることは喜ばしいことなのだけれど、ここだけの話正直嫌だ
出演されている俳優皆さんが素晴らしい
主演のカトウシンスケが本当に素晴らしい
だってあのシーンで泣かされるなんて誰が想像できる
僕は考秋を知ってる
何処かできっと会ってる、もしかしたら
いつかこの先の僕なのかもしれない
倉本朋幸
演出家
奥田監督は物語の面白さと引換えに、映画に宿る人々を断罪するような事は決してしない。
その作家としての勇気と優しさに満ち溢れた贈り物が、どうかあなたの心に届きますように。
藤元明緒
映画作家・「海辺の彼女たち」
この映画は観る人を選ぶと思う。
観る人もこの映画を選ぶと思う。
繰り返し靜かに上映され続け、
疲れ果てた誰かの思考に別の道を示し
観る度に視界すら変化しながら
決して取れることのない悲しみの
胸の内の僅かな希望になれる気がした。
片岡礼子
俳優
心の中で問い続けた、
『私ならどうする?』かと。
観終わった後、空を見上げ
台所でペルシャ料理を作る大事な養母を抱きしめた。
守りたいものがある、全ての人間に。
光というのは、時に眩しく時に残酷だ。
真実を知った時に人はどう動くのか。
散りばめられた心の破片と、
溶接されていく記憶。
もう帰ってこない影を追い求めて。
誰かの花、
その答えはアナタと私にしかわからない。
サヘル・ローズ
俳優
心の中で問い続けた、
『私ならどうする?』かと。
痴呆症の同居の父による植木鉢落下事故という現実でも本当に起こってそうな題材をリアルタッチで顛末を描いていて非常に興味深く観た。
主演のカトウシンスケは存在感があり良い味を出していた。
吉行和子,高橋長英のベテラン勢も安定感のある演技で映画に自然と没入できた。
奥田裕介監督が撮影に4年かけたと言うことだけあり、ワンカットごとの演技の細かさリアリズムは見応えがあった。
奥浩哉
漫画家
昨年某対談で奥田監督は「人々がマルチタスクになっている」と仰った。何かをしながら片手間で嗜めるような軽量で風通しのよいものごとが好まれる時代において、奥田監督はこの映画に高密度の重力を与えていると感じる。その重力はきっと、考えることや感じることから遠ざかりつつある者たちを熟考の場へ呼びもどす力を持っているのだ。
日食なつこ
ピアノ弾き語りソロアーティスト
家族って身近だけれど、実は一番向き合うのが怖いものでもある。
そんな怖いものや悲しい真実には蓋をしたい。幸せなことにだけ目を向けていたい。
『誰かの花』を観た時、無理矢理その蓋を開けられたような痛みがあった。
映画に「嫌でも現実に目を向けろよ」といわれた気がした。
でもそれと同時に、「自分の痛みは自分と時間しか癒せない」ということを教えてくれる、"みちしるべ"のような作品だった。
HONEBONE/EMILY
ミュージシャン
確かに明らかな悪意と共に生きている人たちはいます。
傷つけることが目的の純粋な悪はあります。
でもそんな悪いやつらを掃除したらみんな仲良く平和な世界に!
…な~んてならない。逆立ちしてもならないんです。
悪いやつが一人も出てこないのに。
[みんなが一生懸命で誰かに優しいだけなのに。
そこにも加害と罪は生まれ、それはとても。とんでもなく重い…。
この後味。ぜひ味わってほしいです。
家に持って帰ってずっと噛んでられる映画。
安田弘之
漫画家
崩れる寸前の積み木のような緊張感と鮮烈な風と光に魅せられました。
そしてカトウシンスケさんの「さよなら」。
これを聞くためにも見て欲しい作品でした。
深田晃司
映画監督
登場人物が抱える逃れられない矛盾に、胸が張り裂けそうになった。
善と悪が同居する人間の残酷さは、心にじっとり残り続ける。
日向史有
ドキュメンタリー監督